2018年、わたしは3ヶ月かけて日本全国を周遊していた。
出版社からの依頼で書籍クリームソーダ純喫茶めぐりの撮影の旅。
東北地方を車で走らせながら、日本海の風香る静かで渋い雰囲気に心踊らされていた。
秋田県・由利本荘を訪れる
秋田県・由利本荘市。
みたことも聞いたことも無い土地に触れるとき、子供の頃に知らない隣町まで冒険した、あの小さなドキドキを感じる。
由利本荘。広い道路に背の低い家々が並び、空が広い。静かな街である。
ドキドキを感じると言ったが、数ヶ月も各地を巡り続けると、実際にはドキドキも磨耗して無感動になってしまうのが本当のところ。
撮影納期も迫り、テンポよく取材し先を急ぐ必要があった。
昨日に続き今日も、急ぎ足で出版社から指定された純喫茶へ向かった。
純喫茶サモワール
駅からほど近い、街の中心部に純喫茶サモワールは存在する。
2階建てのかわいらしい建物。
かつては二階部分を覆うように黄色いテントに「サモワール」と縦書きで書かれていたが、台風で飛ばされてしまったらしい。
正面にある大きな窓。昭和の建築によくみられる、角丸の窓が素敵だ。
扉の右上に、なにやら白い札が見える。
「風俗営業許可済 十八歳未満のお客様の入場をおことわりします」
公安委員会から許可を受けているということ。
かつては、お酒や深夜営業もやっていたという事だろう。
サモワールの店内
いよいよ店内に入ってみる。
扉をあけると小さな鈴の音が。
開閉の度に音がなるギミックが施されている。レトロだ。
入り口をに入りすぐ、通路はL字型になっていて奥の店内は見渡せない。
右手には曲線が美しいウィンドウディスプレイ。
グラスやビンが飾られている。
正面にはガラスの無い小さな窓。
奥にキッチンが見えるので、ここからお弁当のテイクアウトが出来たのかもしれない。
振り返りやってきた玄関を見てみる。
反転したサモワールの文字と手洗い場が設けられている。
しっかりと手を洗って入店しなさいという優しいメッセージ。
体の向きなおし、ようやく店内へ入る。
そこは、私の中でドストライクな「ザ・純喫茶」の世界が存在していた。
パーティションの機能を果たしながら、柔らかな光を取り込むガラスブロック。
テーブルゲーム筐体まで置いてある。
「上海Ⅲ」は、ランダムに積み上げられた麻雀牌を、同じ絵柄のものを2つ揃えて消していくゲーム。
単純なので無になりながら遊べる。懐かしい。
(👉Arcade Archives: Shanghai Ⅲ (アーケードアーカイブス 上海Ⅲ) )
ちなみにこの床は「足の下のステキな床」という書籍で紹介されている。
ページをめくると、日本全国の「床」が出てくるので、度肝を抜かれるだろう。
常連さんが座るカウンター席
店の奥はカウンター席がある。
私が訪問したときには常連さんと見られるマダムが腰をかけ、女主人と談笑していた。
女主人は、カウンターに座った私に「何か食べる?」と、1年ぶりに帰郷した息子のごとく話しかけてきた。
食べなさい食べなさいと、やきそばと更にピザトーストを出してくれた。
お昼過ぎに来ていて、ちょうど食べていなかったので、良いタイミング。お腹が満たされた。
サモワールの創業50年以上経つ。
現在の女マスターは4代目。歴代のマスターがこのお店を守ってきたのだ。
一時期よりも客足は遠のいているのを嘆いていた。
こんな素晴らしい喫茶店は長く残っていて欲しい。
わたしにできる事はないか。このお店の事をブログに書いて少しでも認知できれば。
と、女マスターと話をして、ようやくいま書く事ができた。(2年経った・・)
女マスターとは、そのあとも色んな話をした。
秋田のこと。由利本荘のことや、自分のこれまでの旅とこれからの旅。東京や千葉での生活。
このあたりは自然が圧倒的に素晴らしいらしい。
「なんだか昔から知ってるみたいねぇ」と投げかけてきたが、わたしも同様に思っていた。
気をつけてね、また来ます、と別れを告げ、わたしは青森へと旅だった。
2018年の初回訪問から1年後、2019年の夏に、再訪問。
一度目に撮影した写真の一部を印刷してプレゼントをする事ができた。
秋田県・由利本荘の純喫茶「サモワール」
昨年 #クリームソーダ純喫茶めぐり の取材で訪れたお店。取材時の写真をプリントして郵送するつもりが忘れ、一年ぶりに直接手渡せた。
本のおかげで、ジワジワお客さんが増えてきているらしい。
またお互い元気に会えて嬉しい。
アイスご馳走になった。 pic.twitter.com/eEbVIT80ol— ヒロタ ケンジ (@piroken1980) June 13, 2019
後日、そのお礼でりんごジュースやお米など、たくさんの返礼品を郵送でいただいた。
こういった旅先での交流はとても楽しくありがたい。
移動に疲れていた私に、暖かさと活力を与えたくれた。
これまで訪れた純喫茶で5本の指に入る、強く記憶に残る喫茶店であった。
おしまい
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